続  カナメ物語  06

(大森駅 無料バスのりばにて)
すみませ〜ん 並んで下さ〜い。
何だ?今日 えらく混んでるな。
隣の知らないおじさんが 「カナメが戻って来たらしいよ」と言う。
カナメって あの カナメですか?
そう あのカナメだよ。みんな 会いたくて 来たんだと思う。
自分も競馬始めたきっかけは、カナメの走りを見て 一目惚れしたから なんです。
みんな そうさ。俺なんか 乾物屋を早閉まいして 来たんだよ。
おじさんも好きですね。
あぁ。
満員です。次のバスに乗って下さ〜い。 まるで 年末の大賞典なみの混雑に係りの人も大変そうであった。
京急の立会川駅から降りたら ここも凄い人。まるで川崎大師の参道 初詣みたいで 人 また 人の列。最後尾の看板もった係員が 入場まで 1時間ほどかかります の案内。
課長 大変ですね。
そうだね。 ぷるぷる あっ 妻から電話だ。
「もしもし あのね 友達の マキちゃんが 席を取ってくれたから 裏口から入ってくれって。」
裏口?
「モノレールの方に 専用口があって 名前言えば 警備員さんが通してくれるから」 
うん わかった。
どうしたんですか 課長。
妻からの電話で 友達が来賓席を取ってくれたんだって 君の分もあるらしいよ。
ホントですか! 凄いですね。銀座だけでなく こんなとこにも 顔がきくんですね。
いや 私じゃなくて 妻の力だよ。
じゃ、私の妻にも 連絡します。
関係者専用出入口から 入り 家族と待ち合わせした。
はい これ 来賓席のチケット。
価値あるチケットだな。
お互い 挨拶を済ませ エレベーターに乗る。
陽も落ちかけて ネオンが点灯すると  
 「うわっ キレイ 競馬場ってキレイなのね」
奥さんは 初めてですか?
「いえ 前に 一度。中山競馬場に行きましたけど 昼間でしたから」 
ナイター競馬と言って ここは 主に 夜 開催されてる競馬場なんですよ ビール飲んだり 馬券買ったり。
「うちの主人は そんなの教えてくれなくて 昔は 競馬を敵視してましたの」 
でも 今は?
「河田くんとか カッコイイなって」
ナンダ 騎手かよ  普通は 馬にホレるものなんだけどね。
「あなたの場合は 競馬 バカって言うの」 
あちゃー。 
あはは とりあえず かんぱ〜い。

来場の皆様 大変永らくうまたせ いえ お待たせ致しました。ここ大井競馬場の出身 スーパーホース カナメ号が まもなく 入場致します。熱い拍手でお迎え下さい。
わぁ〜 地鳴りがするほどの歓声が鳴り響く。 カナメ〜 カナメ〜。 おかえり〜。 
「なんや うっさいの  なんやねん  あれ?」 
カナメの為に 集まってくれたんだよ。
「ふ〜ん ヒマな奴らやな」 
こらこら そんな事 言わない。これから 走るからね。
「え〜 聞いてない 聞いてない」 
言ったよ 昨夜。
「‥‥ ホンマ?」 
寝てるとき。
「アホか しらんわ」 
大丈夫 1200 だし 負けても関係ないし。
「なんかくれんの?」
乃木のライブチケット。
「はよ言うてや ほなら 走ったろかい」
場内の皆様 これより 1200mテストレースを始めます。他10頭。
なお 鞍上は 特別参加の岳豊騎手です。
うわ〜 あまりの声援で 近隣の野鳥が一斉に飛び出したとか。
すみません 豊さん。
いえ 交流戦出走予定の馬が取り消しになりましたから 調教のつもりで乗りますよ。
こんにちは カナメくん。
はいな りんご屋はん。よろしゅうに。

陽もすっかり落ち ネオンが輝いております ここ東京は 大井競馬場に スーパーホース カナメ号が帰って参りました。平日というのに なんと!集まったファン約4万人の大観衆 場内 あちこちで カナメコールが響いております。関係者のご協力で 普段公開されておりません テストレースが公開されようとしております。 (特別に生ファンファーレ) 距離1200m 10頭の各馬は 既に ゲートにはいっております。最後 11番ゲートに カナメが向かいます。鞍上は なんと 岳豊騎手です。
各馬 一斉にスタートしました。
バラバラっとしたスタートです。いつも出遅れるカナメですが スタートダッシュ良く 先頭に出ました。1馬身 2馬身と 後続の他馬を引き離していきます。早くも 3角から 4角へ カナメの勢いは 止まりません。後続との差は 20馬身。最後の直線に入りました。おっと 内ラチ沿いから 外へ膨らんでおります。
こらこら カナメくん どこ行くの?
「サービスや サービス 近い方が 喜ぶやろが  ほたら 本気出すで りんご屋はん」
さらに 加速し 割れんばかりのファンの眼の前を疾風如く 走り抜いて ゴールした。
1.10.1  なんと スーニが持つ レコードと並びました。斤量54kgとは言え 凄いタイムです。 
圧倒的なパフォーマンスで 場内のファンを感激させ 真面目に走りさえすれば JRAのG1も夢でないと 岳豊をも唸らせたのであった。
ねぇ カナメくん。
「なんや」 
外ラチ 行かなきゃ レコードだったかもね。
「……」

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