伊橋さ~ん、私達も乗せてくださ~い。
マキが大声をあげる。
早く 早く乗って…
大型スクリーンは、芝生の上で、両足を空に向け苦しむかのような姿を映しだし、観客は、悲痛な叫び声をあげた。
解説の隊長さん、カナメは故障でしょうか?。
(ただ ゴロゴロしてるだけじゃないの?)と思いながらも…そうですね、鞍も外しましたし、心配ですね。
ほらっ カナメ君、みんな来るよ。帰ろうよ。
くぴぃ~ 気持ち良さと激走疲れで、寝てしまった。
ワゴン車が到着すると、一目散に伊橋厩務員が駆けつけてきた。
『カナメ カナメ~』声掛けるも… くぴぃ~
マキも ヨシ君も…体を揺するが… くぴぃ~
そこへ 獣医が到着…
先生~ カナメが カナメが… マキが涙ながらに 早く診て下さいと、訴える。
聴診器を胸にあて、瞳孔を確認し…首をひねった。
先生、カナメは、どうでしょうか?大井競馬調教師 ヨシが、診断結果を求める。
ちょっと…言いにくいんですが…
重症ですか? 先生
い いや…この子の好きな物か、嫌いな物とか …ありますか
好きな? … リンゴが大好きですと、マキ…
嫌いな物は…
多分…私のお酒の臭いが嫌いって、言ってましたと、伊橋厩務員 。
それじゃあ、リンゴはないので… 鼻面に息を吹きかけてもらっていいですか
は?首をひねりながらも、『ふぅ~ ふぅ~』 …
鼻をピクピクさせたかと思ったら、目をパチクリ… 『くっさぁ~』 カナメが目覚めた。
おひげのおっちゃん、酒臭いって言うてるやろ… ん?あれ? みんな、何してはるの?
カナメ~ 大丈夫? …マキが抱きついた。
マキの号泣で周りも、目を潤ませていたが、カナメの目覚めで安堵の笑顔に戻った。
もらい泣きを隠すように背を向けていた岳豊だったが…ホントは笑いをこらえていたのであった。