日本の競馬のルーツと小岩井の牝系

西洋式の競馬は横浜に慰留した外国人が行った競馬こそルーツであった。

幕末の文久元年(1861年)の春に横浜市中区相生町に増設されたストレッチ・コースで行われた。翌文久2年(1862年)には山下町(現在の中華街あたり)にトラック・コースを増設し競馬を楽しんだ。慶応元年(1865年)になってコースを根岸に移転され、根岸競馬と命名され開催した。明治6年(1873年)には明治天皇が重臣たちを従えて行幸された。一向には西郷隆盛の姿もあった。

スタンドは満員の盛況であり、当時の根岸競馬法の風景を撮影した写真が残されている。

◎日本人による競馬のルーツ

日本人による競馬は安田伊左衛門氏の尽力を得て池上競馬場を建設し(現大田区池上)明治39年(1906年)池上競馬が開催された。

私が住んでいる家は当時の厩舎の跡である。

この池上競馬が日本競馬の原点である。
JRAは安田伊左衛門氏の偉業を永く後世に伝えるため安田記念G㈵にその名を残した。昨年(2006年)は100年という記念すべき年であった。安田記念にサブタイトルをつけて盛大なイベントが行われると思っていたが・・・何事もなかった???

◎小岩井農場の名牝達の輸入100年記

池上競馬の常時開催が可能と決まるや、小岩井農場(岩手県雫石・オーナー/岩崎弥太郎氏)はいち早く英国で上質の繁殖牝馬、種牡馬を購入するため1906年の秋に渡航を決めた。年が明けた1907年に現代まで継承され多くのクラシック・ホースを輩出している基礎牝馬が輸入された。彼女らは国家的な予算とも思える大金を投じての輸入であった。

◎輸入繁殖牝馬の顔ぶれ

ビュウチフルドリーマー(6,000円)
キンドラー(6,000円)
アストニシメント(5,500円)
フローリスカップ(5,500円)
ウェットセール(5,500円)
プロポンチス(5,000円)
他にエナモード、フェアペギー、フラストレート、ヘレンサーフ、ボニーナンシー、ラインの12頭である。上記の金額は明治40年当時のものである。

明治37年・38年の日露戦争に勝利した日本の国威は高まった。また岩崎氏は(三菱財閥)日露戦争で多大の利益をあげていた。その一部が繁殖牝馬購入に投じられた。池上競馬の開催、日露戦争の勝利、繁殖牝馬と種牡馬の購入と一連のプロセスが100年後でも手に取るように見えてくる。

購入された良質な繁殖牝馬たちのDNAは小岩井農場の強力な戦力となって現れた。また、彼女らはに本競馬の基礎牝馬となり、日本競馬史に強力な足跡となった。名牝のDNAは今日(100年後)まで脈々と継承されている。

◎ウォッカは輸入から10代孫に当るフローリスカップ系である

輸入100年を記念誌桜花賞・オークスに勝利してもらいたい。小生は彼女にエールを送りたい。また、100年記に華を添えてもらいたい。日本競馬の100年ロマンスである。

□約20年間(1985〜)に小岩井の牝系が輩出した名馬
メイショウサムソン : 皐月賞・ダービー *フローリスカップ系
ヒシミラクル : 菊花賞・天皇賞(春)・宝塚記念 *ヘレンサーフ系
スマイルトゥモロー : オークス *ビューチフルドリーマー系
スペシャルウィーク : ダービー・天皇賞(秋)・ジャパンカップ *フローリスカップ系
マチカネフクキタル : 菊花賞 *フローリスカップ系
ファイトガリバー : オークス *アストニシメント系
トロットサンダー : 安田記念・マイルチャンピオンシップ *フラストレート系
オフサイドトラップ : 天皇賞(秋) *アストニシメント系
シスタートウショウ : 桜花賞 *フローリスカップ系
メジロマックィーン : 菊花賞・天皇賞(春)・宝塚記念 *アストニシメント系
レガシーワールド(?馬) : ジャパンカップ *プロポンチス系
レオダーバン : 菊花賞 *ビューチフルドリーマー系
バンブービギン : 菊花賞 *ウェットセール系
アイネスフウジン : ダービー・朝日杯 *プロポンチス系
ヤエノムテキ : 皐月賞・天皇賞(秋) *キーンドラー系

20年間に16頭のG㈵勝馬を輩出している。
近年、繁殖牝馬の輸入が盛んになり小岩井牝系は極少数が残っている。しかるに上記のような名馬を輩出している。小岩井の牝系のG㈵勝馬の輩出率は輸入繁殖牝馬や輸入後2〜3代の牝馬が日本の繁殖牝馬の主流となった現在である。小岩井牝系のDNAの凄さを感じる。

明治40年の6,000円は現在では10億円に相当するといわれている。現在の高額繁殖では足元にも及ばない。小岩井農場の馬産は大当たりし、次々と良馬をターフに送り込んだ。

小岩井農場の成功に刺激されて、下総御料牧場、新冠御料牧場(両者は宮内庁がバックボーン)、社台牧場(社台の本家筋の先代)、ユートピア牧場(栗林友二氏・現在の先代)、下河辺孫一氏(現在の下河辺牧場の先代)、北海道庁種蓄牧場などが1932年頃までに次々と良質の牝馬を輸入した。

御料牧場が対象15年(1926年)に英国から輸入した種正(Young Man’s Fancy 1920)、新冠に配地したクレイグダロッチ(Craigdarroch 1922)。英国が1930年代の大恐慌という最悪の時代であった。下総御料牧場は金さえ払えば宝物の名牝でも手に入れることが出来た訳だ。

米国産の繁殖牝馬であり冠名に星をつけて区分した。
5頭の星繁殖は優秀であった。
星谷・サニーブライアンの祖牝馬
星友・トウカイテイオーの祖牝馬
星旗・ハクチカラ(ダービー・天皇賞・有馬記念・国産馬として外国の重賞勝馬第1号)
星浜・アサホコ(天皇賞)
星若・ワカクモ(桜花賞)/テンポイント(天皇賞・有馬記念)/テイトオー(ダービー)の祖牝

前出の英国より輸入繁殖牝馬、種正から
ボストニアン(ダービー・皐月賞)
ロイヤルシンザン(安田記念)
イナリワン(天皇賞(春)・宝塚記念・有馬記念)
バンブーメモリー(安田記念)

種道から
プレストウコウ(菊花賞)

クレイグダロッチから
スターロッチ(オークス・有馬記念)
ウイニングチケット(ダービー)
ミホノブルボン(皐月賞・ダービー・朝日杯)
サクラユタカオー(天皇賞(秋)2回)
サクラスターオー(皐月賞・菊花賞)
アイフル(天皇賞(秋)3200m 2回)
ハードバージ(皐月賞)

と多くのG㈵ホースを輩出している。なお、クレイグダロッジの4代母 Angelica 1879 は歴史的名馬セントサイモン St. Simon 1881 の全姉にあたる。特に優秀なDNAである。

サラブレッドの繁殖牝馬を得ることは大変な資金を必要とする高嶺の花であった。牧場を持ちサラブレッドの生産をすることはステータスであった。2大勢力のブリーダーの他にも大金を投じた資産家や北海道庁が良質繁殖牝馬を購入して馬産に加わった。

栗林友二氏(海運業)がアイリッシュアイズ、セレタを輸入、前者はクリノハナ(ダービー・皐月賞)、ライスシャワー(菊花賞・天皇賞3200m 2回)、クリヒカリ(天皇賞)。後者のセレタはクリペロ(天皇賞)、クリヒデ(天皇賞)などを生産。

社台牧場(現在の先々代)はソネラとデヴォーニアの2頭を下総御料の星繁殖牝馬と同時に入手した。前者の子孫にカミノテシオ(天皇賞3200m)、ナスノコトブキ(菊花賞)、ロナ(オークス)、フレッシュボイス(安田記念)、ホマレボシ(有馬記念)、メジロドーベル(オークス・エリザベスQ杯・秋華賞・阪神3歳牝馬S)。

北海道庁種蓄牧場は小岩井の牝系より3年早く(1903年)にチップトップを輸入。その子孫よりアサデンコウ(ダービー)、メリーナイス(ダービー・朝日杯)、ヒロイチ(オークス)、ゴールドシチー(阪神3歳S)、シルクジャスエス(有馬記念)。

下河辺孫一氏、現下河辺牧場の先代は米国からシュリリーを輸入し子孫にクインナルビー(天皇賞)、オグリキャップ(有馬記念2回・マイルチャンピオンシップ・安田記念)、オグリローマン(桜花賞)などを輩出し、輸入繁殖牝馬の勢力も恐れるに足らずである。

確実にDNAは継承されている。
小岩井の名繁殖牝馬輸入100年記念として、オークス当日にでも『小岩井物産展』のブースでも出してもらいたい。

“イプラトロビウムが禁止薬物となる”

ディープインパクトが凱旋門賞(仏G1)で3着入着した。しかし検体からイプラトロビウムを検出されて失格となった。池江泰郎氏は日本では認められていると、何の罪悪感もないような会見が記憶に残っている。その問題の薬物である。

先日3月2日のスポーツ誌はイプラトロビウムが今年いっぱいで禁止薬物に組み込まれると報じた。
イプラトロビウムはサンデーサイレンス系の地を持つ馬たちには欠くことのできない妙薬であった。サンデーサイレンス系の産駒は気管に欠陥を有する遺伝を持って生れてくる。確率はメンデリズムから75%である。イプラトロビウムは気管を拡張するための薬剤である。しかし本剤はステロイドであり外国では禁止薬物となっている。
ディープインパクトの身体はステロイドで造り上げたと言われても仕方がない。真にベンジョンソンであった訳だ。

日本の競馬もNo.1グループとなり国際交流も盛んになった。3月1日のドバイの国際レースに8頭が参戦し、ドバイデューティーフリーG㈵・第12回でアドマイヤムーンは1.47.94(1770m)を圧勝した。ダイワメジャー(天皇賞)は3着に入着している。昨年もハーツクライがドバイシーマクラシックG㈵を制している。

禁止薬物にするのが遅すぎた。
今後生れてくるサンデーサイレンス系種牡馬の産駒には厳しい状況となった。
JRAが下した飽和状態のサンデーサイレンス系の地の淘汰策のように思える。

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